息苦しそうだ
そう彼は言った…











「ジュダル」

目を覚ましてすぐ、白い部屋の中で黒い彼を探す。もう身に染み付いた行動だ。いつもならば傍らにある黒は今日は無く、気怠い身を起こしてその姿を探しにいく。







―ここに来て二週間が経った。
シンドリアで眠れない夜を過ごしていた時、ジュダルは突然ふらりと目の前に現れて、俺に手を差し出してきた。何が何だか分からずに、どうするべきかとぐるぐるしていた俺を笑った彼は一言。


『息苦しそうだよな、おまえ』


ぐさりと刺さった棘に一度身を震わせた。呆然と目の前に立つ相手を見つめるだけしか出来ず棒立ちのまま微動だにしない俺をしばし観察していたジュダルは、ふっと軽く空気を揺らして俺の手を取った。
まん丸い満ちた月の下、俺は結局なにも…なにひとつ言えないまま彼に連れられシンドリアを後にした。
ふうわりと飛ぶ魔法の絨毯の上、必要も無いのにずっと俺とジュダルの手は繋がれたままだった。




なぜ、どうして、
そうした問い掛けに意味を見出すことが出来ない気がして、質問といえばここで生活する上でのことばかり。いびつでおかしいこの生活は、けれどどうしても俺にとって限りなく優しいもので。







複数ある部屋をひとつひとつ覗き辿り、そうして三つ目の部屋の中、ようやく眠る彼を見つけた。まるで姿の見えない母親を探す子どものような行動だ。けれどこれを恥ずかしいとは思わない。

「ジュダル」

ひとつ音を零してみる。波紋にもならない程度の声はきっと彼には届かなくて。
閉じた瞳を見つめながら、長い睫毛を見つめながら、そしてもう一度唇を開く。

「ジュダル…起きろよ」
(目を覚まして)
(俺に、)


「(俺に呼吸を教えて)」


ジュダルが眠る布の海の中、俺は彼の傍らに縋るように身を倒す。ばかみたいだ。だけど、でも、お前が俺を甘やかすから。ぎゅうっと彼を包む布を握りしめる。ふ、とその時そんな自身の手を覆う温度を感じて。

「じゅ、だる」

がばりと伏せていた身を起こせば、そこには薄っすらと笑みを貼り付けた男が一人。

「なんだよ」

あの日のように変わらない笑みを象る彼は繋ぐ手はそのままに、空いた片手を俺に伸ばしてそのまま引き寄せた。寝ていたせいか、いつもよりジュダルの体温が高い気がする。心音が聞こえるほど近付いた相手は、そのまま引き寄せた手で俺の髪をぐしゃりと掻き混ぜた。乱される髪を感じながら目を閉じ、そうして彼の背に手を回す。するとジュダルも髪を弄る手を止めて、同じように俺の背に手を回してきた。
お互い無言のままで過ぎる時間。何も無い沈黙と怠惰。だけどこれがどれだけ俺にとって…。






答えを一人で導き出して
そうであることを求められて
途方もない目標を立てて
これが当たり前と諭されて
怖いことも我慢して
こんなに強いと周りに誇示して
毎日の努力は欠かさないで

こうしよう
こうしなきゃ
こうであるべき
こうしたい
…だからこそ、こうするんだ

重ねてきた一段一段。
これからも積み上げていく一段一段。
そこに在るものを誇って認めて認めてもらうことで報われるのだと。

(だけどそれでもやっぱり俺はいつだってどこか弱くて)




『息苦しそうだ』



だから敵であるはずのこいつにそう言われてどこかのタガが外れた。ジュダルにとって俺は格下で弱くて、どうしようもなくただの人間で。前提としてあるそれらは紛れも無く俺を馬鹿にしていて、きっと俺は今までの俺のために怒るべきで。重ねてきた努力を一瞬で無にするようなそんな前提を怒るべきで。…だけど、そうあるべきなんだって囁いてくる俺にいつだって俺は泣きたかった。

(人の違いが悲しくて、それでもみんなが幸せであるように)

当たり前だと刷り込まれた世界こそが誰かを苦しめるのだと知った今、ならばこれまでの自分は世界は積み上げてきたものは良いものだったのかって。そうしてこれから歩む道は、辿っていく先は誇れるものとして胸を張れるだろうかって。
押し潰されそうな四辺の隅。だからこそ俺はあの時確かにお前に救われたんだ。









「ジュダル」
「ん?」
「…明日、帰る」
「…ああ」

俺の言葉にそう返したジュダルは、背に回していたお互いの手を解きにかかり、そうして両手の指を絡めてきた。二人布の海の中、横たわりながらそれぞれ相手の顔を見つめる。
きっと帰りもまたふうわりと絨毯の上、二人手を繋いで行くのだ。明日も確か満月で。どうせなら楽しもう。せっかくの夜の下、俺とお前の二人きりなんだ。









軽く触れ合わせた唇の赤を、俺はきっとずっと忘れない。









(だけどお前の身勝手こそが、俺を生かす酸素になる)






***


ジュダアリ企画『銃口に愛』様に参加させて頂きました!本当にありがとうございます!!
わあああああもうこれわあああああなんて甘くも面白くもない話でもうわあああああすみません…っ!(滂沱たる涙)
ジュダアリ好きなんです好きなんです好きなんですよおおおおすみませんんんん。正に典型的な愛が空回りしちゃったパターンなんですが、愛だけは詰め込みましたむしろそれしかありません(白目)
お題の意味の斜め上を突っ走った感のある話になりましたが…少しでも楽しんで頂けていたらと思います。敵という立ち位置だからこそ見えるもの、出来ることというものを書きたかったアレです。同じ場所にいないから余計おいしいよねジュダアリ!

ジュダアリは大変おいしく素敵なCPだと思っております。こんな素晴らしい企画に参加させて頂き、本当にありがたいです。ありがとうございます!

企画を立ち上げ運営下さっている月影様、そしてご覧くださった方に全力の感謝を申し上げます!
他の方々のお話も楽しみですねデヘヘ。一人場違いですみません(土下座)


それでは終わりに長々と申し訳ありません。
ジュダアリ愛!


針山うみこ